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物理シミュレーション×AI:新しい予測技術SciMLとは? ~RiverCast技術紹介~

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  • 6 時間前
  • 読了時間: 5分

気候変動の影響により、私たちはこれまで経験したことのない異常気象に直面しています。それに伴い、災害を防ぐための「高精度な予測技術」の需要がかつてなく高まっています。


構造計画研究所が提供する「RiverCast」も、河川の水位上昇を予測するシステムの一つですが、予測技術について詳しく知りたいという声をいただく機会が増えてきました。


そこで、本企画では、従来の予測モデルの課題を克服する予測アプローチについて複数回にわたってご紹介します。



1. 物理とAIの予測手法のアプローチ

予測手法には、大きく分けて物理法則に基づくシミュレーションと観測データに基づくAIを用いた手法の2つがあり、それぞれアプローチが異なります。


物理法則に基づくシミュレーションは予測したい現象を数式で表現し、式を解いて解を得ることで予測を行います。


一方で、AIは現象を数式化せずに、過去のデータから学習したパターンを用いて予測を行います。


物理SimとAIによる予測手法の特徴



2. それぞれの予測手法の課題

物理シミュレーションは計算の前提となるデータが限られた状況でも予測可能ですが、複雑な現象を数式化して良い物理モデルを作成することは困難です。また、モデルや現象の規模によっては、計算時間が長くかかるためリアルタイムでの予測が難しいといった課題があります。


AIは物理法則から知ることが厳しい複雑な関係性を捉えるのが得意ですが、良い予測を行うためには大量の学習データが必要ですし、学習データにないパターンの予測を苦手としています。また、予測の根拠やプロセスが人間には分からない「ブラックボックス」状態になってしまう点が弱点とされています。


物理SimとAIによる予測手法の課題


3. 物理とAIのいいとこどり「SciML」

物理シミュレーションやAIによる予測の課題を解決するため、注目を集めているのが「Scientific Machine Learning(SciML)」と呼ばれる分野です。

これは、データから学習するAIモデルに、物理法則という科学的知見を合わせた予測アプローチです。


SciMLの位置付け


物理法則とAIの2つをかけ合わせることで、データが少ない現象においても物理法則を無視しない、信頼性の高い予測が可能になります [1]。



4. 代表的なSciML手法

SciMLの中には解決したい課題の特性に応じて様々な手法があります。

ここでは、その代表的な例をいくつかご紹介します。


PINN(Physics Informed Neural Networks)

ニューラルネットワークの学習時に、微分方程式などの物理法則を直接組み込む手法です。具体的には、AIが学習時に最小化を目指す損失関数の中に、データとの誤差だけでなく、物理法則(支配方程式)を満たさないことへのペナルティ項を組み込みます。

これにより、少量の観測データからでも物理的に矛盾のない結果を出力できます [2]。

たとえば、流体の性質を決めるパラメータの特定 [3]や、震源位置の推定 [4]といった研究に利用されています。


GNN(Graph Neural Networks)

データ同士の依存関係・相互作用をグラフ構造で表現し、データが持っている複雑な関係性を読み解く手法です [5]。

物理シミュレーションで用いられる空間のメッシュ構造と相性が良く、空間的な相互作用をAIに学習させるのに適しています。

計算負荷の高い複雑な物理シミュレーションを高速かつ高精度に再現した研究や [6]、従来手法よりも高い精度で気象予報を行った研究などがあり [7]、様々な分野で力を発揮しています。


EDM(Empirical Dynamic Modeling)

物理法則が完全には明らかになっていないという複雑な現象でも、データの動きを解析して背景にある物理的なメカニズムを読み解き、予測などに活用する手法です。AIのようにデータから学習しつつも、現象のルールを再構築するため、未知の状況にも対応しやすい特徴を有しています。

このアプローチ手法は、リアルタイム洪水予測システム「RiverCast」の予測技術のコアとして社会実装されています [8,9]。



5. おわりに

今回は、物理シミュレーションとAIの課題、そして双方の強みを融合させたSciMLの概要をご紹介しました。


SciMLは今まさに発展している分野であり、技術や活用法は日々進化しています。これまでのシミュレーションでは困難だった複雑な課題を解決する手法として、大きな期待を集めています。


次回は、SciMLの多様なアプローチの中でも、RiverCastのコア技術として社会実装されている「EDM」についてより詳しくご紹介します。EDMを用いることでなぜ少ないデータから未知の事象も予測できるのか、その背後にあるメカニズムを探っていきます。



【関連技術資料のご案内】

本記事で触れた「RiverCast」の予測技術について資料を公開しています。 より深く知りたい方は、ぜひダウンロードしてご覧ください。


▼ SciML(EDM)を社会実装した「RiverCast」の詳細や活用事例はこちら





【参考文献】

[1] Baker, N., Alexander, F., Bremer, T., Hagberg, A., Kevrekidis, Y., Najm, H Parashar, M., Patra, A., Sethian, J., Wild, S., & others. (2019). Workshop Report on Basic Research Needs for Scientific Machine Learning: Core Technologies for Artificial Intelligence, DOI: 10.2172/1478744.

[2] Raissi, M., Perdikaris, P., & Karniadakis, G. E. (2019). Physics-informed neural networks: A deep learning framework for solving forward and inverse problems involving nonlinear partial differential equations. Journal of Computational Physics, 378, 686-707.

[3] Raissi, M., Perdikaris, P., & Karniadakis, G. E. (2017). Physics Informed Deep Learning (Part II): Data-driven Discovery of Nonlinear Partial Differential Equations. arXiv, 1711.10566.

[4] 縣 亮一郎. (2025). 地震学研究におけるScientific machine learning(SciML)の活用. AI・データサイエンス論文集, 6(1).

[5] Scarselli, F., Gori, M., Tsoi, A. C., Hagenbuchner, M., & Monfardini, G. (2009). The Graph Neural Network Model. IEEE Transactions on Neural Networks, 20(1), 61-80.

[6] Pfaff, T., Fortunato, M., Sanchez-Gonzalez, A., & Battaglia, P. W. (2021). Learning Mesh-Based Simulation with Graph Networks. arXiv, 2010.03409.

[7] Lam, R., Sanchez-Gonzalez, A., Willson, M., Wirnsberger, P., Fortunato, M., Alet, F., Ravuri, S., Ewalds, T., Eaton-Rosen, Z., Hu, W., Merose, A., Hoyer, S., Holland, G., Vinyals, O., Stott, J., Pritzel, A., Mohamed, S., & Battaglia, P. (2023). Learning skillful medium-range global weather forecasting. Science, 382(6677), 1416-1421.

[8] Okuno, S., Ikeuchi, K., & Aihara, K. (2020). Practical data-driven flood forecasting based on dynamical systems theory. Scientific Reports, 10(1), 664.

[9] Okuno, S., Aihara, K., & Hirata, Y. (2021). Forecasting high-dimensional dynamics exploiting suboptimal embeddings. Water Resources Research, 57(3), e2020WR028427.



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